「神威狂児」編
A「特捜エクシードラフト」のあの狂気の裏には・・・(後編)
「特捜エクシードラフト」での俺の役は「カルロス東郷」という宇宙生命体なのだが、
幸いだったのは、セリフはやたら喋るのだが、その分、特にハードなアクションシーンが
なかったことだ。顔の表情や上半身のパフォーマンスがメインだから助かった。 ’
初日の撮影は何事もなく終わった。その後、また病院に舞い戻り、点滴を受けて血液検
査、特に悪化はしていない。「よし、なんとかなりそうだ。」 ’
2日目・・・朝3時に起きて点滴→現場→病院に戻って点滴・・・初日と同じパターンで、こ
れも無事に終えた。主治医の先生も、当初の苦渋の表情からいくぶん柔和な表情に変わっ
ている。撮影現場でも、この事は誰にも話してない。それでも普段と同じように元気に振舞
うのは不可能だから「風邪気味で、少し熱があって・・・。」という事にしてある。それでもス
タッフは気を使ってくれて、合間にはなるべく座って休めるように配慮してくれる。ありがたい。
明日の3日目さえ無事にクリアーすれば、そこから5日間はオフになっていた。ちょうどゴー
ルデンウィークに突入するのだ。5日空いて、また4日間続く撮影スケジュールになっている。
よし!5日あれば、体調は更に回復に向かうはずだ。明日の3日目も、同じようにクリアーす
れば、この現場も問題なく終われるはず。次の仕事は入れてないから、これでしばらく静養で
きる。そう・・・「あと一日だけ…」無事に終われば・・・。 ’
事件は、その3日目に起こってしまった。
初日・2日目と無事にこなしたとはいえ「倒れてたまるか」という緊張感がその原動力であり、
実際の身体は、やはり限界点を越えていたのだろう。ツライ・・あきらかに昨日よりもツライ。
ついに俺は、ライフルをかまえた姿勢で照明をあわせてもらっている最中、その態勢のまま
その場に崩れ落ちた!・・らしい。・・目の前は真っ白・・・大勢の人間が騒ぐ声が聞こえる・・・
しばらくの間、意識がなかった。気がつくと、俺はスタッフに囲まれ身を起こしていた。
「どうした?」「大丈夫か?」・・「ええ、大丈夫です。」(なわけないってば。) ’
観念して、事情を話した。そんな状態だから、スタッフも、そりゃあその場であまりキツイ事も
言えないだろう。でも、撮影も終わらせなきゃならない。「勘弁してくれよ」が本音だろう。体調
の自己管理は俳優の義務だ。俺は俳優として失格ということになる。案の定、プロデューサー
は俺のマネージャー・k氏に電話を入れ、「入院してるなんて聞いてないぞ!どういう事だ!」
と声を荒げた。俺はといえば、とにかく今日の撮影シーンをなんとか撮り終えることしか考えて
なかった。誰にどう言われようが、今後の仕事がどうなろうが、そんな事はもうどうでもよかっ
た。ただ、こんな体調で現場に出てきた責任だけは、なんとしても果たしたかった。「休み休み
やってもらっていいですか?なら、やれます!やらせてください。」その後、何シーンかを撮った
のは覚えているが、予定通りに撮り終えたのか?それとも、俺のシーンを後日まわしにしたの
か、そんな事情さえ聞く余裕もなかったが、とにもかくにもその日の撮影は終わった。 ’
病状は完全に悪化した。
惨めな姿で病院に帰還した俺は、カルロス東郷のメイクをしたまま、緊急輸血を受けた。
(メイクを落とす力もなかった)。一度は止まっていた胃からの出血が再び起きていた。血液成分
はさらに低下し、顔面蒼白、歯ぐきやマブタの裏をめくっても一切の血管が見えなくなっていた。
ドラキュラの役なら、このままノーメイクでできそうだ。無理をしたために、入院当初よりも悪化
してしまった。ここから5日間のオフの間、大量の成分輸血を繰り返し、当面、なんとか立って歩
ける程度には回復したが、血液内の成分はまだまだ絶対必要量に達してはいない。 ’
「絶対安静!」主治医の言葉がやたら冷たく感じた。
明日から、再び4日間の撮影が始まる、という日。俺は、前回と同じく「外出許可」を申請した。
主治医の判断は、当然のごとく「絶対ダメ」・・・「今は、薬で出血を止めてるが、もしまた現場で
出血したら・・今度こそは命の保証はできませんよ。」・・おおっ、ドラマで聞くようなセリフだっ、
なんて感激している場合じゃない。「命の保証はできない」この歳で、医者にこんなセリフを言わ
れるとは思ってなかった。「前にも言ったけど、君だけの問題じゃない。そうなったら、許可を出し
た私も、医師免許を剥奪されるんだ。どうしてもというなら・・・自主退院してからにしてくれ。」’
自主退院・・つまり、「医師の判断を振り切って自分の意思で退院する」つまり「その先どうなろ
うが、すべての責任は自分にある。」と誓約するのと同じ事。「・・・わかりました。」 ’
その夜、「自主退院」した俺は、まだフラフラする体をひきずり、ひさしぶりに自宅に戻った。
「なにやってんだ・・・俺。」あらためて思ったが、考えるのはヤメた。とにかく、すべて終わっ
てから考えよう。ベッドに倒れこむと、いろんな事が頭に浮かんだ。 ’
次の日から4日間の撮影は恐怖だった。いつ倒れるかわからない・・自分をだましだまし、
なんとか仕事をこなした。余計なことに気を使わなきゃいけないスタッフも大変だったろう。
何度か、背中に冷や汗が流れる局面はあったものの、幸い、大きな事故には至らず、
計7日間の撮影は無事(?)に終わった。メイクを落とし、迷惑をかけたスタッフに挨拶を
し、現場を後にした俺は、大きく深呼吸をして、空に向けて手をあわせた。感謝・・の一言。
そして・・・
(「エピローグ」に続く)